はじめに 〜空き家は誰にでも関係する問題〜
近年、日本全国で空き家が増え続けています。
総務省の調査によると、日本の空き家率は年々上昇し、この20年で約1.5倍に増加しました。特に、売却や賃貸といった居住目的のない空き家は1.9倍に増えており、長期的に人が住まない家が目立つようになっています。
地方の状況はさらに深刻です。鳥取や島根といった地域も例外ではなく、住宅街や農村部で人が住まなくなった家が放置されるケースが増えています。
空き家になる原因の55%は「相続」です。多くの方が「うちは関係ない」と思いがちですが、親や祖父母からの相続をきっかけに、思いもよらず空き家を所有することになるケースは少なくありません。
そして空き家は、放置すればするほど管理や維持の負担が重くなり、ときには法的トラブルに発展することもあります。
本記事では、空き家が抱えるリスクや法律上のポイント、そして将来のトラブルを防ぐための事前対策について、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
空き家を持つことの3つのリスク
1. 管理の手間
空き家でも定期的な換気や掃除、庭木の手入れが必要です。放置すると建物や庭が荒れ、近隣からの苦情や害虫被害などにつながります。
2. 維持費の負担
住んでいなくても、固定資産税や火災保険料は毎年かかります。修繕が必要になればさらに大きな費用負担が発生します。
3. 法的責任
老朽化した建物や落下物で第三者に被害が出た場合、所有者は損害賠償責任を負う可能性があります。
空き家特措法の流れと固定資産税の増額
【空き家特措法の流れ】
- 1. 現地調査・助言・指導
- 市町村が空き家の現状を調査し、倒壊や衛生上の危険、景観の悪化などが認められる場合、所有者に対して改善の助言や指導を行います。
- 2. 勧告
- 助言や指導に従わず、危険や迷惑の状態が改善されない場合、「管理不全空家」や「特定空家」に認定し、所有者に改善を求める勧告を行います。
- 3. 命令
- 勧告にも従わなければ、修繕や解体などの措置を命令します。
- 4. 行政代執行
- 命令にも応じなければ、市町村が代わりに解体等を行い、その費用を所有者に請求します。

【固定資産税の増額】
固定資産税の住宅用地特例(課税標準1/6軽減)は、「管理不全空家」や「特定空家」に認定され、かつ勧告を受けた場合に適用が外されます。
この結果、固定資産税は最大で6倍程度に跳ね上がることがあります。
つまり、単に空き家であるだけでは税額は上がらず、管理状態が悪く、行政から勧告を受けた場合にのみ増額の対象となります。

相続と空き家の関係
空き家は相続財産の一部ですが、特に地方の空き家は「売れない・貸せない・維持できない」という三重苦を抱えることが多く、相続財産としての扱いが難しい財産です。
不動産は一般的に「プラスの財産」と思われがちですが、地方の売れない不動産は所有しているだけで管理費や税金がかかります。これらの維持費は所有者の負担となるため、実際にはマイナスの財産(負動産)となることも珍しくありません。
その結果、相続人の間では次のような状況が生じやすくなります。
誰も取得したくない
売れない空き家は所有しても経済的メリットがなく、むしろ負担ばかりが増えます。そのため、相続人全員が取得を避けようとし、遺産分割協議が進みません。
都市部在住の相続人との意識の違い
都市部に住む相続人は、「不動産を売却して現金化し、その売却代金を相続人で分ければよい(換価分割)」と考える傾向があります。しかし、地方の空き家は買い手がつかないことが多く、この考えが現実的ではない場合もあります。
地方在住の相続人の立場
地方に住む相続人は、不動産市場の現状を理解しており、売却が難しいことを知っています。そのため「売れない空き家を誰が持つか」という消極的な選択を迫られることになります。
こうした意識のギャップから、遺産分割協議は平行線をたどり、最終的には家庭裁判所での調停に持ち込まれるケースが少なくありません。
相続放棄と管理責任
2023年4月の民法改正により、相続放棄をすれば原則として管理責任は免れます。ただし、例外として「他の相続人が確定するまでの間の必要な管理」は求められる場合があり、注意が必要です。
生前にできる空き家対策
- 現状を整理する
- 相続人を把握する
- 将来の方針を決める
家族で話し合う
両親が元気なうちに、家族全員で空き家の将来について話し合うことが大切です。
突然の相続発生後では、感情的な対立や判断の遅れが起こりやすくなります。
専門家に相談する
空き家の問題は、不動産の立地や状態、権利関係によって最適な解決方法が異なります。
相続や空き家対策は、法律、不動産市場、税務など複数の分野が関わるため、本来は複数の専門家の意見を踏まえて進める必要があります。
WaSay事務所では、依頼者様の状況に応じて各分野の専門家と連携し、コーディネーターとして全体を統括します。これにより、個別の専門家に一から説明して回る必要がなく、ワンストップで最適な解決策を導くことが可能です。
まとめ 〜今日からできる3つの行動〜
- 家族で空き家の将来について話し合う
- 不動産の現状を把握する
- WaSay法律事務所に早めにご相談いただき、専門家と連携した最適な対策を立てる
すでに空き家になっている場合だけでなく、空き家になる可能性がある場合に備えて対策をしておくことが大切です。
お気軽にご相談ください。
